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『セル』

『セル』スティーブン・キングセルスティーブン・キング、新潮文庫(2007)。

ストーリー》ある年の10月01日午後03時03分(米国東部標準時)、のちに「パルス」と呼ばれることになる現象が発生し、文明世界は一瞬にして崩壊する。携帯電話(セル)を使用する者たちが理性を完全に失い、極度の暴力衝動に駆られ、手当たり次第の殺戮を始めたからだ。

さまざまな事情により携帯電話を使用しなかった者たちは「携帯狂人」と化すこともなかった。が、少数派である彼ら彼女らは「携帯狂人」の攻勢になすすべもなく敗退を続ける。

すべてのルールは過去のものとなり、世界は無法地帯と化した。主人公のクレイ・リデル(グラフィック・ノベル作家)は、たまたま知り合ったゲイの中年男トム・マッコート、15歳の少女アリス・マックスウェルとともに、別居中の妻と息子がいるはずの「我が家」を目指し危険に満ちた「旅」を開始する・・・。

感想》本書『セル』はゾンビ小説の「亜種」と言えます。スティーブン・キング言うところの「携帯狂人」は死んではいないけれど、正常人にとってきわめて危険であるという点でゾンビに近い存在と見なせるだろうと思います。

訳者・白石朗氏の「あとがき」によると、『セル』出版に先立ちキングは "ゾンビ小説の登場人物になる権利" をチャリティ・オークションにかけ、それをある女性が約2000ドルで落札、さらに権利を兄に譲渡したことで登場人物のひとり「レイ・ホイゼンガ」が誕生したそうです。つまり、著者自身が「ゾンビ小説」と公認していることになりますね。

また、本書がリチャード・マシスンジョージ・ロメロに捧げられていることも、「ゾンビ小説の亜種」であることの傍証となるでしょう。

SF作家として知られるリチャード・マシスンの代表作のひとつ『吸血鬼 (地球最後の男)』はこれまで3度映画化されています。

アイ・アム・レジェンド』(2007)
地球最後の男 オメガマン』(1971)
地球最後の男』(1964)

マシスンの『吸血鬼 (地球最後の男)』は邦訳タイトルが示すように「ヴァンパイアもの」ですが、世界中の人間がモンスターと化し、生き残った「人間」が怪物たちと生存を賭けた戦いを続けるというプロットがキング作の『セル』と共通しています。

映画監督ジョージ・ロメロは『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』(1968)によりホラー映画に「ゾンビもの」というジャンルを創設し、大傑作『ゾンビ』(1978)により金字塔を築き上げた「ゾンビホラーの巨匠」です。ロメロのゾンビ映画も生存者たちと怪物(ゾンビ)との戦いを描くという点でマシスン『吸血鬼 (地球最後の男)』・キング『セル』と同じ構造を持っています。

以下、スティーブン・キング『セル』から、リチャード・マシスン、ジョージ・ロメロとの関係が見られた箇所を覚え書きとして残しておきます。

『セル』の上巻60ページで、「チョイ役」のウルリッチ・アッシュランド巡査が「携帯狂人」のひとりを射殺した直後に、映画『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』の名を挙げています。

上巻201-202ページで「全米ライフル協会」が主人公たちの話題に挙げられています。「全米ライフル協会」の元会長に俳優のチャールトン・ヘストンがいます。そしてヘストンはマシスン作『吸血鬼 (地球最後の男)』の2度目の映画化『地球最後の男オメガマン』で主役を演じています。

上巻407ページで15歳の少女アリスが「死者たちの夜明け」という表現を使ったことが言及されています。「死者たちの夜明け(Dawn of the Dead)」は映画『ゾンビ』とそのリメイク作品『ドーン・オブ・ザ・デッド』(2004)のタイトルです。また「アリス」という名は近年の秀作ゾンビ映画『バイオハザード』(2002)でミラ・ジョヴォヴィッチが演じたスーパーヒロインと共通しています。

「ゾンビ」とは関係ないのですが、下巻の86ページでは、映画監督サム・ペキンパーの名が挙げられています。「狂気の天才」ベキンパーの代表作はウエスタン『ワイルドバンチ』(1969)です。革命下のメキシコを舞台にアウトローの主人公たちがメキシコ政府軍・アメリカ陸軍・バウンティハンターたちと死闘を繰り広げる。この暴力描写に満ち満ちた映画では、少なく見積もっても数百人の登場人物たちが銃で撃たれナイフで斬られ、死んで行きます。

じつを言いますと、『ワイルドバンチ』は私(喜八)の「オールタイム・ベスト1」映画です。15歳のときにテレビ放映で初めて観て以来、その後、都内のいくつかの「名画座」で観て、さらにはVTRでもDVDでも繰り返して観ています。私にとっては間違いなく「最高の映画」と言えるでしょう。

そして『ワイルドバンチ』に負けず劣らず「素晴らしい!」と思っている映画が『ゾンビ』なのです。大学1年生のときに東京は「新宿パレス座」で初鑑賞。こちらもテレビ・VTR・DVDで何度も観ています。おそらくスティーブン・キング氏とも、この「嗜好」はかなり似ているのでしょうね(相当に偏ったアブナイ嗜好だと思いますが・・・)。

以上のような理由もありまして『セル』は私にとっては大変に「面白い」小説でした。久しぶりにキング小説の世界に耽溺することができました。やっぱり、スティーブン・キングは素晴らしい!


(『セル』スティーヴン・キング、新潮文庫、2007)


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