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『ロード・オブ・ザ・リング/王の帰還』

『ロード・オブ・ザ・リング/王の帰還』突進するムマキル

映画『ロード・オブ・ザ・リング/王の帰還(原題:The Lord of the Rings: The Return of the King)』ピーター・ジャクソン監督(2003)について。

ストーリーJ・R・R・トールキン(John Ronald Reuel Tolkien、1892-1973)原作の長編小説を映画化。空想世界「中つ国(Middle-earth)」の歴史上「第三紀」に勃発した「指輪戦争(The War of the Ring)」の顛末を描いています。

復活した冥王サウロンが大軍勢を組織して、中つ国全土の征服を企む。これを阻止するため主人公のフロドホビット)、アラゴルン(人間)、レゴラスエルフ)、ギムリドワーフ)、ガンダルフイスタリ)たちが立ち上がる。勝敗の命運はフロドが所有する「一つの指輪(One ring)」にかかっていた・・・。

感想》原作の『指輪物語(原題:The Lord of the Rings)』を読んだとき「これは合戦小説だな」という印象を抱きました。とくに後半に入ると華々しい合戦場面の連続です。最初のほうがひどく退屈なので、この長い小説を読むのを放棄してしまう人も少なくないようですが、合戦小説となってからは俄然面白くなるのです。

今回の映画化では、この合戦小説としての要素が強調されています。そして原作の退屈な部分はあっさりと切り捨てられています(たとえば第一巻における中つ国最古の住人トム・ボンバディルの登場場面など)。

ロード・オブ・ザ・リング/王の帰還』の山場は要塞都市ミナス・ティリスの包囲戦と、それに続くペレンノール野の合戦(Battle of the Pelennor Fields)でしょう。が、正直なところ「ちょっとなあ・・・」と思わせられる部分もありました。

戦争に利用される動物たち
サウロンの同盟軍である南方部族ハラドリムHaradrim)が操る巨象ムマキルMûmakil、Oliphaunt とも呼ばれる)、ナズグル(Nazgûl)の首領が乗る怪鳥(Fell-beast)、および多数の馬たちが可哀想でした。彼らは人間が勝手に行なう愚行(戦争)に強制的に参加させられているのですから。

男装で戦闘に参加するローハンの姫君エオウィンがムマキルの足や Fell-beast の首を斬る場面では思わず「動物を虐待するな!」と声がでてしまいました。ムマキルのすねに刺さった無数の矢、という描写も「痛い」ものがあります。

サウロン軍に所属して、破城槌グロンドGrond)や投石器を操作し、また城門が破られた後は尖兵として戦闘に参加するトロール(Troll)の存在も、なんだか哀れです。トロールたちは故郷の山で大食いしたり喧嘩をしたりして平和に(?)暮らしていたいのではないでしょうか。対人間戦争に熱意を持つとは、とても思えないのです。

『ロード・オブ・ザ・リング/王の帰還』ファラミアの突撃

白人中心主義
すでに多くの人が指摘されているように『ロード・オブ・ザ・リング』には白人中心主義的な要素があります。これは原作の小説も同様です。

「善」の側に属するホビット・人間・エルフ・ドワーフはすべて白人です。視覚的に描かれる映画では、その事実が残酷なまでに明白となります。白人で金髪、鎧は銀色、乗馬は白毛というのが象徴的な「善」のイメージです。

反して「悪」のサウロン軍は白人以外の人種として描かれています。ムマキル(巨象)を操るハラドリムは黒人であることがはっきりしています(原作に明記)。おそらく北アフリカの黒人回教徒というイメージなのでしょう。

そしてサウロン軍の主力であるオーク(Orc)。映画『ロード・オブ・ザ・キング』に限っていうと、オークはアジア人なのではないかと私は考えています。13世紀ヨーロッパに進入し無敵を誇ったモンゴル兵のイメージが投影されているのではないかと思うのです。

オークたちが身につけている黒い鎧は黒澤明監督作品『』や『影武者』に登場する雑兵を髣髴させます。まるで黒澤映画を観ているのではないかと錯覚するような一瞬もありました。きわめて東洋的なのです。

ちなみに善の側の軍装が銀色中心で、悪の側のそれが黒色中心というのは、ハリウッド映画の「文法」といってもいいでしょう。数多くのファンタジー映画・歴史映画に共通する表現手法です(最近は傾向が変わってきたかもしれませんが)。

そういえば小学生のころテレビ放映で観たジャック・パランスJack Palance)がフン族アッティラ大王を演じた映画『異教徒の旗印(原題:Sign of the Pagan)』ダグラス・サーク監督(1954)でも、アッティラ軍は黒い鎧かぶとで身を固めていました。人間のしゃれこうべを使った馬印などは『ロード・オブ・ザ・リング』のオーク軍のものとそっくりです。小学生の私は自然にアッティラ軍を応援していました。

5世紀にヨーロッパ深く攻め込んだフン族もアジア系の遊牧民族です。『異教徒の旗印』の前半ではアッティラ大王軍が無敵の強さを見せていました。しかし映画の最後には剽悍無比だったはずのアッティラ軍が、軟弱な白人主人公率いるキリスト教軍に大敗し、大王も暗殺されてしまうのです(ただしこれは史実と異なります)。子供心にも納得がいかない展開でした。

『ロード・オブ・ザ・リング』でも「オーク=アジア人」というイメージができてしまうと、「善」の主人公側を応援する気持ちはなくなってしまいます。オークの軍勢がミナス・ティリスを包囲するとき、思わずオークの側を応援してしまっている自分に気づいたりします。モルドール軍副指揮官でオークのゴスモグGothmog)が「The Age of Men is over. The Time of the Orc has come.」と宣言するときも思わず「そうだー!」と合いの手を入れたりして・・・。

映画ではゴンドールの執政デネソールの次男ファラミアが、圧倒的なサウロン軍に対して絶望的な突撃を敢行する直前、ミナス・ティリスの民衆が嘆き悲しむ場面があります。ここに現れる民衆もみごとに白人ばかりなのです。ここで黒人・東洋人・アラブ人など多民族の俳優を登場させれば映画により深みが増したのに・・・。

とはいえ白人のトールキンが書いた原作をもとに白人のジャクソン監督が映画化しているのですから、白人中心であっても仕方ないでしょうね。「人種差別だ」なんて無粋なことは申しません。実際のところ映画『ロード・オブ・ザ・リング』三部作は上質のエンターテインメント作品に仕上がっています。が、東洋人の私には白人の観客とは一味違った楽しみ方があることは指摘しておきたいと思います。


(『ロード・オブ・ザ・リング/王の帰還』ピーター・ジャクソン監督、2003)


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